『DX白書2021』から読み解く社内SEに求められるスキルと転職の狙い目!
社内SEへの転職を目指すときに無視できないのが「DX」というキーワードです。2020年以降、DXと無縁の情報システム部門など皆無と言ってもよい状況です。では、企業側はDXに関してどのような人材を求めているのでしょうか?もう少し具体的に言うと、転職の書類選考や面接でどのような経験やスキルをアピールすれば、あなたの転職活動は有利に進むのでしょうか?
結論をさきにお伝えすると、求められるのは「アジャイル開発経験」「経営層や業務部門を巻き込んだリーダーシップ経験」です。しかもそれを内部人材への教育ではなく、中途採用者に求めています。一方でDX推進においては「技術に強い」といった要素は重要視されにくいと言えます。
なぜそのようなことが言えるのでしょうか?それは『DX白書2021』で明らかになっているためです。もちろん個々の企業によって求める人材像やスキルセットは異なりますが、マクロの視点で傾向を掴むことは非常に重要です。この記事では、『DX白書2021』を読み解きながら、日本企業のDX状況、今後求められるスキル、転職の狙い目となるシステムや業界について解説します。
- 日本・米国のDX推進状況
- 日本企業がDX推進できていない要因
- 日本企業がDX推進人材に求めるマインド・スキル
- この状況下での転職の狙い目
- ITエンジニア職の中途採用を担当(書類選考、面接)
- 文系大卒業後、国内大手SIerに就職
- MBAでマネジメントやHR領域を学ぶ
- 35歳をすぎて倍率200倍の私立大学職員へ転職成功
- 情報システム部門で管理職&プロジェクトマネージャ
『DX白書2021』とは
『DX白書2021』は情報処理推進機構(以下、IPA)が2021年10月に発行しました。これまでIPAは、IT人材に関する調査である『IT人材白書』を10年以上毎年発行し、AIに関する調査である『AI白書』を3年以上毎年発行してきました。人材とAIをはじめとする技術、そしてDXに必要な戦略を併せることで2021年から『DX白書』を発行したと言われています。
『DX白書2021』は日米の企業900社以上へのアンケート調査(2021年7月〜8月)をベースにしており、企業のDXに関わる戦略、技術、人材の状況をデータにもとづいて解説しています。
※『DX白書2021』はIPAの下記URLからダウンロード可能です。
https://www.ipa.go.jp/ikc/publish/dx_hakusho.html
『DX白書2021』の調査対象企業については同書のP.18以降に詳細が記されています。R35では調査データを見るうえでいくつかの注意点があると考えています。
- アンケート回答対象は日本企業が534社、米国企業が369社であり、日本企業が多いこと。
- アンケート回答企業の業種に日米で偏りがある。日本企業は製造業(日40.1%・米25.2%)、流通業・小売業(日24.9%・米11.9%)に偏っている。一方、米国企業はサービス業(日19.5%・米30.1%)、情報通信業(日7.5%・米24.1%)に偏っている。
- アンケート回答者に日米で偏りがある。米国は38.2%が経営層が回答しているが日本は13.7%である。一方、情報システム部門が回答した割合は日本が19.9%であるのに対して米国は12.7%と少ない。
日米企業のDX取り組み状況
『DX白書2021』によると日米の企業ではDXの取組状況が大きく異なることがわかります。米国企業は3社に2社の割合で全社戦略にもとづいてDXに取り組んでいます(71.6%)。取り組んでいないのは全体の14%にすぎません。
一方、日本企業は3社に1社の割合で「DXに取り組んでいない」と回答しています。さらに、米国の71.6%が「全社戦略にもどついてDXに取り組んでいる」のに対して、日本企業は45.3%にとどまります。日本の転職市場において「DX人材募集」が活況であるのは、この出遅れた状況に起因していそうだと考えられます。
さらに、日本企業の中でも業種によってDXの推進度合いは異なります。下図のとおり、米国と比較して日本企業の情報通信業や金融業・保険業においては「全社的なDX」は推進されていると言えます。一方、製造業や流通業・小売業においては大きく遅れを取っていると言えそうです。サービス業のうち「取り組んでいない」と回答した割合は倍近く(日本45.2%・米国26.1%)の差がある点も特徴的です。
- 日米で比較すると、日本企業のDX取り組み状況は大きく出遅れている。
- 日本企業の1/3はDXに取り組んですらいない。
- 業界によってDXの取り組み状況は異なる。製造業や流通業・小売業のDXの出遅れが目立つ
DX推進の2つの障壁
日本企業が米国企業と比べてDXが推進していない理由として2つの障壁が考えられます。それは「アジャイルアプローチ」と「経営者・IT部門・業務部門の協調」です。
アジャイルアプローチ
DXは従来のように計画どおりにシステム導入するのではなく、ニーズが不確実で技術が適用できるかも不確実、しかもスピードが求められます。そのため迅速かつ柔軟に計画を変更できるアジャイルアプローチが求められます。
『DX白書2021』では、このアジャイルアプローチの適用状況についてアンケートを集計していますが、日本企業の適用状況はかなり低い状況と言えます。
経営者・IT部門・業務部門の協調
DXは「デジタル技術やデータ活用することでビジネスを変革すること」ですので、その推進において、経営者とIT部門と業務部門でビジョン・ゴールを共有することの重要性は圧倒的に増しています。
ですが、『DX白書2021』で「経営者・IT部門・業務部門の協調」についてアンケートを集計した結果を見ると、日本企業では「経営者・IT部門・業務部門の協調」は4割に満たないことがわかります。米国企業は86.2%が「十分にできている」「まあまあできている」と回答しており、日本企業の協調度合いの低さがわかります。調査ではその原因まで言及されていませんが、現場主導である日本企業の特徴があらわれている可能性があります。
DXに求められるスキル・マインド
ここまで、「日本企業はDXの推進が遅れていること」、そしてその要因として「アジャイルアプローチが足りないこと」「経営者・IT部門・業務部門の協調が不足していること」が考えられることを紹介しました。この状況下で、日本の転職市場ではどのようなスキル・マインドが求められるのでしょうか?
求められるマインド・スキル
『DX白書2021』では「企業変革を推進するためのリーダーにあるべきマインドおよびスキル」についても調査しています。その結果、日本企業と米国企業では大きな違いがあることがわかっています。
DXが進んでいる米国企業においては「顧客志向」「業績志向」「変化志向」「テクノロジーリテラシー」が必要と考えています。それに対してDXが比較的進んでいない日本企業においては「リーダーシップ」「実行力」「戦略的思考」「コミュニケーション能力」「意思決定能力」が求められています。
米国企業では「顧客を把握し、テクノロジーをキャッチアップできる現場力」が求められ、日本企業では「プロジェクトを推進できるリーダーシップ力」が求められると言い換えることができそうです。
人材の過不足状況
そして、米国企業の約半数は変革を担う人材が質・量ともに「過不足はない」と回答しているのに対して、日本企業の76.0%は変革を担う人材の量が「やや不足している」「大幅に不足している」と回答しており、77.9%は質が「やや不足している」「大幅に不足している」と回答しています。(同P.9)
社員への教育
質・量ともに不足している日本企業ですが、社員への教育(学び直し)については非常に消極的であることもわかっています。社員の学び直しの方針について「実施していないし検討もしていない」と回答した企業が約半数にのぼります。これは米国企業の約10%という数字と大きな乖離があります。
- 日本企業では、変革を担う人材に「プロジェクトを推進できるリーダーシップ」を求めている。
- その人材は質・量ともに大幅に不足している。
- しかし、人材育成において消極的な会社が約半数にのぼる。そのため即戦力の中途採用での人材確保に期待がかかっている状況と言える。
『DX白書2021』から読み解く社内SE転職の狙い目
業界ごとで転職戦略を練る
『DX白書2021』であきらかになっているとおり、日本企業は業界ごとでDXの推進状況は大きくことなります。情報通信業や金融業・保険業は比較的にDXが進んでいます。一方、製造業や流通業・小売業は比較的にDX遅れています。
あなたが「企業の文化や状況を変えることに長けている」という場合は比較的にDXが遅れている業界のDX人材に応募するほうが合格率は高まるでしょう。一方、「すでに生まれているDXの流れに乗りたい」という場合はDXが進んでいる業界を選ぶ方が良いと言えます。あなた自身が「変革型」か「追従型」か、その実績や特性を鑑みて、応募する業界・企業を選ぶことでミスマッチを防ぎ、選考を有利に進める機会にできます。
2020年以降のIT利活用状況で狙い目を探る
『DX白書2021』には、2020年以降のIT利活用の変化についても言及されています。
日本企業の状況を鑑みて、あなた自身がこれまでに取り組んだことのある分野がアピールできそうかもチェックしておきましょう。
例えば、2021年7月〜8月時点で「検討中」の割合が高い「押印処理の電子化、社内手続きの電子化」はワークフローの導入や電子契約システム(DocuSignやクラウドサイン)の導入経験があれば、強くアピールできると考えられます。
一方、この時点では「検討していない/導入予定はない」と回答されている「販売チャネルのオンライン化」や「チャットボットの利用」「AR/VR」も今後検討が進む中でアピールのチャンスが訪れることが予想できます。
DX推進経験をアピール
当たり前の話ではありますが、実際に現職や前職でDXを推進した経験があれば、それが一番のアピールポイントになります。ただし、その場合も「テクノロジーリテラシー」や「顧客志向」よりも「リーダーシップ」「実行力」「コミュニケーション能力」といったヒューマンスキルを評価する傾向にあることを念頭に置きましょう。
さらにその際、「経営層・IT部門・業務部門の協調」をあなたを中心に進めてきたという実績をアピールできれば、採用担当者から強い関心を持ってもらえる可能性が高まりそうです。
アジャイルアプローチの経験・スキルをアピール
DXの推進においてはPoCを始めとする実証実験的なアプローチやアジャイルアプローチが注目を集めはじめていますが、日本企業においてアジャイルアプローチはまだまだ浸透していません。そのため、あなたがアジャイルアプローチの経験を持っている、あるいはその知識・スキルを持っている場合は強くアピールすべきだと言えます。
アジャイルアプローチを実践した経験を持つ人材は、実際に中途採用の選考を担当する立場から見ても非常に魅力的です。また、実際には経験できていなくても知識・スキルを持っている場合はアピールできます。具体的には2021年以降のPMPはアジャイルアプローチが試験範囲の半分を占めており、その証明になると言えます。
まとめ
35歳以上で社内SEへの転職を目指す場合、自分を上手にアピールするためにも『DX白書2021』で日本企業の実態を確認しておくことを強くおすすめします。
またこれ以外の情報収集には、社内SEに詳しい転職エージェントの活用も有効な手段です。社内SEへの転職でおすすめできる転職エージェントをご紹介しますので、ぜひ無料登録のうえで活用してください。
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